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インタビュー

「地域医療を支えるクリニックとして」

Q.診療時に大切していることはなんですか。

医者の前に来ると言いたいことも言えなくなってしまうような患者さんが、私の前では様々なことを気軽に相談してくれる、そんな雰囲気を作りたいと考えています。大きな病院など専門医療機関では、どうしても時間の制約があり、なかなか気軽に相談はしにくい。一方で、かかりつけ医(家庭医)である私たちクリニックは、何でも気軽に聞いてくださいという姿勢が大切だと思います。
患者さんのお話を聞いていると、せっかく大きな病院を受診して検査や治療を受けたのに、今後の見通しや病名もはっきり聞けていないことがあります。聞きにくい雰囲気もあるのでしょうが、時間をかけて受診したのですからしっかり説明を聞かれるといいでしょう。また、どうしても聞けないときは説明の内容や検査結果をお持ち頂いて当院で可能な範囲でご説明をすることもあります。医療を受けるのは患者さん自身ですから、何よりも御本人が理解納得していることが大切です。私は患者さんと医師の間にある見えない垣根を取り払ってあげたいと考えています。

Q.患者さんにとってインターネットの情報はどう利用すれば良いのでしょうか。
どんな病気だろうかと、基本情報を調べるためにインターネットを見るのは問題ないと思います。しかし、どのサイトを見るか、サイトに書かれた情報が何の根拠に基づいて書かれているか、それを十分にチェックして欲しいと思います。たとえば、口コミなどは、あくまで体験談に過ぎないので、それが自分に当てはまるとは限りません。また、病気にかかっている人の心理的な弱みに付け込んで、不安感をあおるような問題のあるサイトもよく見かけます。そういったサイトの情報を鵜呑みにするのは危険です。医師が自らの専門領域について書いているような情報や、医療機関が各専門領域の病気について説明してるものなどが信用できると思います。

Q.医師になろうとしたきっかけはなんですか。
私の父が医師でしたので、医師である父の後ろ姿を見て育ちました。ですから医師という仕事が自分がつく職業の選択肢に上がってきたのは自然なことだと思います。私の実家は住宅と診療所がひとつになった建物でしたので父の診療する姿を見るのが日常でした。日々診療にあたる父が患者さんに大きな信頼を頂いていたことをいつも感じていました。そのような医師たる父の姿にあこがれを持ったんだと思います。今は自分を選んで来院していただいた患者さんに対して誠実に向き合っていくように心がけています。

Q.開業するまでの医師人生はどのように過ごされましたか。
私は高校生の時に森鴎外の伝記を読んで、医者に対するあこがれが明確になり、その後勉強を始めましたが、高校時代は勉強ができず長く浪人することになりました。なんとか医学部合格を果たし、卒業後は心臓外科を専門にしようと考えて外科の医局に入局しましたが、医局の方針(全身管理ができる外科医を育てる)や人事の関係で消化器科や集中治療部に配属されるなど、そのチャンスをなかなかつかめずにいて、医師になって7年目にやっと心臓専門の病院に派遣されたんです。しかし、いざはじめてみると、周りは2年目、3年目から心臓外科の修行をしていて、私は心臓外科専門知識や技術の上で大きく遅れていたんです。自分より年下のチーフレジデントから知識や技術を1から教えてもらう日々でした。そんなときに、小児心臓外科の先生から、「君は何でも自分ができなくてはと考えなくてもいいんだよ。後輩にその道を引き継いでもらうのも大切なことなんだからそれでいいじゃないか」と言われたんです。それは悲しかったですね。心臓外科医を目指さなくていいと言われたようなものですから。やはり、周りからは心臓外科を極めるには、遅すぎると見えたんでしょうね。

Q.開業のきっかけはなんですか。
先ほどの話をきっかけに、今後医者としてどう生きていくかを考えました。スタッフの充実した専門病院で、高度な医療を駆使して患者さんを助けるのも大切です。それと同時に当時見ていた患者さんで、なぜこんなに悪くなるまで放置しておいたのかという方も少なからずいらっしゃいました。治療はタイミングが大切ですが、そのタイミングを外してしまっている状況でした。適切に病状を見極め、適切な病院を適切な時期に紹介することが大切なんです。
自分は心臓外科医としての技術は極められなかったけれども、幸い多くの症例や手術に立ち会い、知識や経験は持つことができました。また、消化器、健診、一般外来など様々な患者を診てきた経験から、その知識を患者さんと最初に接する、初期医療(プライマリケア)であるクリニックで活かせるのではないかと考えたのです。これが診療所を開業しようと考えたきっかけでした。

Q.外科医からはじまって、家庭医ということをどうお考えですか。
現在、年齢構成の変化による疾患の変化(慢性疾患の増加)、医療技術や薬の進歩などがあいまって、治療手段は多様化しています。一方で専門化が進み、患者さんにとっては自分の病気は何科で対応してもらうべきなのか診療科の名称を見てもわかりにくい部分もあります。そういう時代では症状を限定せず間口を広くしてなんでもまず診察し適切な治療へ導く家庭医が必要だと思います。風邪など一般的な病気から慢性疾患、そして命にかかわる病気や怪我など分野を絞らず対応できるようになれたのは幸いだと思っています。私が大学を卒業するときに、理想の外科医は「手術のできる内科医だ」とおっしゃる先生がおられました。内科医と外科医の両方の経験があれば非常にすばらしいという意味でしょうね。わたしも外科医の経験を大切に、家庭医として地域医療に貢献できればと思っています。

Q.現在の開業場所を選んだ理由はなんですか。
私はこの近所に実家があり、小学生から高校生までこの地域に住んでおり、土地勘がありました。今はビル診(医療ビルなどにテナントとして入るスタイル)が主流ですが、自宅開業していた父の印象が強く、家庭医として開業するのであれば医院併用住宅であるほうが地域のことが分かっていいのではないかと考えました。現在は隣の学区で、兄が父の跡を継いでクリニックを開いています。この地域は高齢化が進んではいますが、周囲の学校は生活環境がよいためか児童数は減っておらず、幅広い年代を対象に地域医療の入り口として支えていきたいと考えています。

Q.開業して18年が経ち、これからどうして行きたいと思っていますか。
わたしは、患者さんが「このクリニックを選んでよかった、はずれじゃなかった」と言ってもらえるように、医療の質を高め、クリニックを磨き上げたいと思っています。ただ、私も年齢を重ねますからそういった意味では次の時代も見据えなければなりません。常に質の向上に努め、足を運んで下さる患者さんの気持ちに応えることのできるクリニック、そういったコンセプトを理解してもらえるよう常に準備するとともに、次の世代を考えて切れ目のない地域医療を展開したいと思っています。
そのためにも、これからさらに患者さんに満足いただけるよう、ソフト、ハード両面で良いクリニックづくりをしようと考えています。この地域の医療を私とそのあとに続く者とで、微力ながらも支えていければと思っています。

—安部先生、インタビュー有難うございました。先生のお話を聞いて、地域における開業医の役割、医師が生まれながらに持っている宿命、そして親から子へ子から孫へと地域医療を支えるのだ、という使命感をお聞かせいただきました。本日は誠にありがとうございました。

(インタビューア:MICTコンサルティング 大西大輔)

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